仏教なるほどゼミナール「愚痴」

イチロ「今日は待ちに待った運動会。いよいよ僕の運動能力をみんなに知らしめる時がきた!」
ナオキ「はいはい、まずは100メートル競争ですよ」
イチロ「ぬははは。みろ、この可憐な走りを!」
ヒカリ「タツキ君、1着!イチロー君、2着」
イチロ「ええっ!そんなバカな!。このイチロー様より早く走る男がいたとは。信じられない」
マサコ「そんなこと言うなら、ほら、他の競技で挽回してみなさいよ」
イチロ「よし、障害物競走で勝負!」
 …他の競技でもことごとく負けるイチロー君…
イチロ「なんということだ……。北京オリンピックではメダル獲得の期待が寄せられている僕が、こんな無様な負け方をするなんて…」
ヒカリ「だれも期待してませんって」
マサコ「しかし、おそるべき伏兵、タツキ君」
イチロ「くそー、この日のために僕はどれだけ練習を重ねたことか」
ナオキ「あれ、そうだったっけ?」
イチロ「これだけ一生懸命やっているのに、僕はなんでこんな目にあわねばならないんだ……」
先生「こらこら、競争で負けたからって、愚痴を言っているな」
ヒカリ「あ、先生」
イチロ「グチって、何ですか?」
先生「うむ、愚痴とは、人の幸福をねたみ、人の不幸を喜ぶ見にくい心のことなんだよ。いいかい、漢字では『愚痴』と書く。愚はおろかということ。痴は、病だれに知と書くだろう」
ナオキ「知恵が病院に入っている、ということですか」
先生「つまり、字の意味からいえばおろかだということだけど、つまりは因果の道理が分からない心のことなんだ」
ヒカリ「因果の道理については、以前このゼミナールでも勉強しましたね」
ナオキ「思い出せない人は、バックナンバーをどうぞ」
先生「そう、原因と結果の道理ということだったね。結果には必ず原因がある。原因なしに現れる結果は一つもない」
マサコ「まかぬ種は生えぬ。まいた種は必ず生えるということですね」
先生「そう。ここで原因とは、私たちの行い、行為のことだったね。善い行いは善い結果を、悪い行為は悪い結果をもたらし、自分が受ける結果はすべて自分の行為で決まる」
マサコ「幸福になるのは、それだけ善い種まきをしたからなのね」
ヒカリ「不幸になるのは、自分の悪い行いの結果なのですよね」
先生「うむ。しかし、善い結果がきた時は喜べるけれども、自分に悪い結果が引き起きた時、『こんなはずではなかった』と他人のせいにして恨んだり、世の中を呪ってねたんだりする」
イチロ「うー、僕が苦しいのは、タツキ君のせいだ〜、タツキ君が悪い〜」
ナオキ「うわあ、ネタミ、ウラミ、恐ろしい〜」
マサコ「それは因果の道理が分かっていない姿なのですね」
先生「そうだね」
イチロ「くそー、このままでは腹の虫がおさまらない。タツキ君、ドブに落ちてケガしないかな」
先生「こらこら、それも愚痴だぞ。勝るをネタム、恐ろしい心だ。他人の幸せそうな姿を見ると、どうも面白くない。それどころか、何か災難にでもあってくれないかと祈ったりする。反対に、他人の不幸せな姿を見て、喜ぶ心もあるだろう。それも、愚痴からくるものだね」
ヒカリ「とっても悲しいことですね」
イチロ「うう……僕はこれだけ頑張っているのに……あれだけやったのに……」
マサコ「まだ愚痴ってる」
先生「うーん。まあ、イチロー君の気持ちもよく分かる。しかし『これだけとはどれだけか』反省してみることも大切なことだぞ」
イチロ「もちろん練習しました。放課後100メートル走を2回。1日おきにやりましたよ」
ヒカリ「それだけ?」
イチロ「あとは、健康を保つために、たらふく食べてぐっすり寝る」
マサコ「……」
ナオキ「タツキ君は?」
タツキ「僕は、毎朝2キロのジョギングとストレッチ。夕方はトラック10週と筋力トレーニングを3ヶ月前から毎日続けました」
ナオキ「おお、鍛え上げられた肉体がまぶしい!」
イチロ「まじ? 君はオリンピック選手か!?」
先生「うむむ。まさに蒔いた種まきに応じた結果が現れた訳だ。」
イチロ「まいりました。まだまだ努力が足らなかった」
先生「蒔いた種は必ず生えるが、蒔かぬ種は絶対に生えない。原因なくして、結果は生じるはずはないからね。ぶつぶつ愚痴を言う前に、精一杯努力しよう!」
イチロ「はい、わかりました。次の競技では負けないぞ!」
(おわり)

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